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愛し野塾 第111回 バリアトリック術5年経過後の糖尿病評価

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2型糖尿病患者のなかでも「肥満」を伴う症例では、血糖管理、体重管理は、さらに難しくなることが国内外の研究で明らかにされてきました。長期間かけて身に付いてしまった生活習慣の改善、とりわけ食事療法や運動療法の実行は、「言うは易し、行なうは難し」で、数値変化をもたらすには、当然、継続的な努力が必要であることはいうまでもありません。「体重管理」だけを取り上げても、これまで施行されてきた研究では、いかなる介入をしても、一年に平均5%程度の体重減少という結果がせいぜい、というのが実情です。飽食時代のさなか、パーソナルスペースで楽しめる娯楽は豊富になる一方で、仕事に出ればストレスに晒される反動も加わり、つい身体活動が顕著に少ない「座り過ぎ」の生活、 言い換えれば「セダンタリーな生活」に陥りやすいといった世の中の傾向は、誰しも知るところです。こういった背景から、必然ともいえる、「糖尿病パンデミック時代」を迎え、その対処法について、医療現場でも試行錯誤しながら取り組んでいるところです。
 
今回、解説するのは、昨年、アメリカで、2型糖尿病の「標準治療」として認知された注目の「バリアトリック術」です。外科術によって消化管の栄養センシング機構に手を加えると、これまでに類のない良好な糖尿病管理、及び体重管理が可能となり、なかには「糖尿病の寛解レベル」に達する症例も認められる、という夢のような話が現実となりました。
 
この治療法の医学的重要性を世に知らしめたのが、2015年の医学誌ランセットに発表されたイギリス、キングスカレッジのミングローン博士らの研究です(文献1)。60例を対象にBMI44という「重症肥満者を対象」に、バリアトリック術である「ルーワイ•バイパス術」、あるいは「胆膵バイパス術」が施行されました。5年の経過観察の結果、手術を受けたかたの50%が「いわゆる寛解状態」、すなわち、投薬なしで1年以上「HbA1cを6.5%未満」を達成したのです。平行して観察された従来療法による治療を受けていた患者のうち寛解状態に達成した人は一例もありませんでした。
 
さて、2017年2月16日に発表された、アメリカ、クリーブランドクリニックのシャウアー博士らの研究は、「より多くの糖尿病患者」を本治療法の対象とされることを目論んで、肥満程度のより少ないかた(BMIが27-43)に対して、バリアトリック術が施行されました。前述の2015年に報告されたミングローン博士らの研究では採用されなかった「スリーブ状胃切除術」の群を新たに設け検討が行われました。この「スリーブ状胃切除術」は、現在、肥満手術として最も汎用されている術式です。さて、結果は、平成29年2月16日号NEJMに掲載され、世界中の注目を集めているところです(文献2)。
 
対象者は、20-60歳で、HbA1cが7.0%以上、BMIが27-43のかたとしました。対象となる患者は、バリアトリック標準手術である「ルーワイ•バイパス法」を受ける群、「スリーブ状胃切除術」を受ける群、「治療薬のみ(治療薬群)」の群の3群に無作為に割り付けられました。一次評価項目は、「HbA1cが6%未満の達成率」としました。なお、バリアトリック術を受けたかたは、「治療薬のみ」群と同様、インスリンを含む標準治療を同時に受けました。
 
150人の患者が3群に割り付けられました。結果分析の対象とされたのは、死亡した1名(治療薬群)、経過観察できなかった6人、試験開始できなかった9名(治療薬群8名、スリーブ状胃切除群1名)の合計16人を除く、134名で、5年間のフォローアップが行なわれました。治療薬群の1名が、試験開始3年後にHbA1cが9%を超え、ルーワイ・バイパス術を受けました。スリーブ状胃切除群の一人が、術後4年目に、胃穿孔の合併症を起こし、ルーワイ・バイパス術を受けました。
 
対象患者の平均年齢は49歳、女性66%、平均HbA1cは、9.2%、平均BMIは37でした。糖尿病罹病期間は、平均8.4年で、対象患者の44%がインスリン治療をしていました。治療薬群、ルーワイ・バイパス術群、スリーブ状胃切除群の3群間に年齢・性別・各種検査・投薬状況などの患者特性に有意差はありませんでした。
 
調査開始5年経過後、HbA1c6%未満に達した患者は、「治療薬群」で38人中2人(5%)でした。「外科術を施した2群」のHbA1cは、ともに有意に良好な成績を認め、それぞれ、ルーワイ•バイパス術群で49人中14人(29%)(治療薬群と有意差あり、P=0.01)、スリーブ状胃切除術群で、47人中11人(23%)(治療群と有意差あり、P=0.03 )でした。多変量解析によって、「5年後」のHbA1c6%未満を達成する因子は「糖尿病の罹病期間が8年未満であること」、及び「ルーワイ・バイパス術に割り付けられたこと」と算定されました。
 
寛解状態として定義された「治療薬なしでHbA1cが6%以下を達成できた」人は、「ルーワイ・バイパス術」で11人(22.4%)、「スリーブ状胃切除術群」で7人(14.9%)でした。治療薬のみ群には、寛解状態のかたは一人もいませんでした。ガイドラインで治療の目標とされるHbA1c7%以下を達成できたひとは「治療薬のみの群」では、8人(21.1%)で、「ルーワイ・バイパス術」で25人(51%)(治療薬のみの群と有意差あり、P=0.012)、「スリーブ状胃切除」で23人(49%)(治療薬のみの群と有意差あり、P=0.016)でした。
 
バリアトリック術を受けた群は、治療薬のみの群と比較して、より早く、より大きく、より持続的に、「HbA1c、空腹時血糖、BMI」が低下していました。
BMIが35を超えていても、超えていなくても、バリアトリック術を受けた患者の、HbA1c及びBMIの低下率に、有意な差を認めませんでした。
 
HbA1cの低下率について、バリアトリック術を受けた群で、2.1%、治療薬のみの群で0.3%と、バリアトリック術を行うことでHbA1cの低下が顕著であることが明らかとなりました (P=0.003)。5年経過後のBMIの低下率は、ルーワイ・バイパス群で23%、スリーブ状胃切除群で19%、治療薬群で5%でした。中性脂肪の低下は、それぞれ40%、29%、8%(ルーワイ・バイパス群、スリーブ状胃切除群、治療薬群)、HDL-Cの増加の程度は、それぞれ32%、30%、7%(ルーワイ・バイパス群、スリーブ状胃切除群、治療薬群)で、インスリン使用率は、それぞれ35%-34%、13%(ルーワイ・バイパス群、スリーブ状胃切除群、治療薬群)、減少していました。生活の質指標(RAND-36健康指標)は、3群それぞれの試験開始時の指数と比較し、17点、16点、0.3点(ルーワイ・バイパス群、スリーブ状胃切除群、治療薬群)の増加を認め、バリアトリック術による顕著な生活の質の向上が認められました (P<0.05)。
 
バリアトリック術を受けた群では、インスリンを含む治療薬全般の減薬を認め、血糖降下剤処方が中止された患者は、ルーワイ・バイパス術群で45%、スリーブ状胃切除術群で25%に及び、ルーワイ・バイパス術群の予後の良さが明確に示されました(P<0.05)。
 
本試験終了時、バリアトリック術が行われた方は、インスリン治療が89%が不要となり、HbA1cは平均7.0%を推移していました。治療薬群のみでは、61%のかたがインスリン治療は不要で、平均HbA1cは8.5%でした。
 
報告された有害事象は、手術処置の2群のうち、術後一年以内に、4例が再手術を要しました。スリーブ状胃切除術を受けたかた1人に脳卒中を認めました。治療薬群に比較して、手術群でより多くの貧血を認めました。
 
今回の報告では、著者らは、 2つほど大きな問題点を挙げています。まず、心血管病イベント、網膜症、腎症、神経症などの合併症発症率、及び死亡率の比較検証をするには、対象者数が不十分であり、経過観察期間が短いことです。また「治療薬群の服薬アドヒアランス」が、試験開始後3年以降「低下傾向」を示し、成績の低迷に影響したのではないか、ということが示唆されています。
 
さて、本研究、また過去の研究も含めて顧みると、危惧される事象は他にもありそうです。バリアトリック術には「再手術」が少なくないこと、頻発する貧血症状から類推される「消化・吸収に及ぼす影響」、また本研究では報告はありませんでしたが、胆石の手術と同頻度で「術死のリスク」があることも議論すべき課題であると私は考えています 。
 
困難にもかかわらず、理想的な体重管理そして血糖管理に臨む肥満糖尿病患者の、本当の願いは、治療薬から開放され、生活の質を上げることでしょう。今後バリアトリック術の「安全性が確立」し、軽度な肥満のかたも含む肥満糖尿病患者の少なくとも5分の1から4分の1程度に糖尿病寛解状態をもたらし、もちろん体重も20-25%程度減少させることが現実的になれば、多くの方が薬から開放され、生活の質の改善も期待されます。「バリアトリック術」という選択肢は、様々な悩みを抱える糖尿病患者に差し込んだ一筋の光明ともいえる治療法になるのではないかと期待するところです。
 
参考文献1 
Mingrone, G., Panunzi, S., De Gaetano, A., Guidone, C., Iaconelli, A., Nanni, G., Castagneto, M., Bornstein, S. and Rubino, F., 2015. Bariatric–metabolic surgery versus conventional medical treatment in obese patients with type 2 diabetes: 5 year follow-up of an open-label, single-centre, randomised controlled trial. The Lancet, 386(9997), pp.964-973.
 
参考文献2
Schauer, P.R., Bhatt, D.L., Kirwan, J.P., Wolski, K., Aminian, A., Brethauer, S.A., Navaneethan, S.D., Singh, R.P., Pothier, C.E., Nissen, S.E. and Kashyap, S.R., 2017. Bariatric Surgery versus Intensive Medical Therapy for Diabetes—5-Year Outcomes. New England Journal of Medicine, 376(7), pp.641-651.
 
 
 
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