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愛し野塾 第112回 愛し野塾 自閉症スペクトラム障害の「早期診断」の実現へ

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自閉症スペクトラム障害(ASD)は、88人のこどもに1人の割合(米国調査)で生じるという、比較的高頻度に起きる障害として、すでに国際的に取り組まれている発達障害のひとつです。国内でも1.1%の有病率があると推定され、その診断は、行動障害に基づき、すなわち、1)社会性の著しい欠如、2)コミュニケーションに困難を伴うこと、3)興味の範囲が狭く、4)儀式的なくりかえし行動がみられる、ことが特異的な中核症状としてあげられています。
 
2歳前後の早期に診断をつけるには、専門の医師による診察を要し、またその専門医の数が限られていることから、結果的に、診断時期は平均4歳前後というのが現実です。「社会生活が円滑に出来る」までに行動障害を軽減するには、「早期の介入が効果的」であることが、医学・神経心理学・教育学的研究など多方面から指摘されつつあるものの、実現に至らない現状です。「早期介入の重要性」については、最近発表された、母子へのPACT療法の早期介入によって、社会適応性の改善など顕著に効果を示した調査研究も記憶に新しいところです(文献1)。
 
さて、ASDのこどもがいる場合、次に生まれてくるこどものASDの発症率は、18.7%と推算され、これは、一般の発症率の約20倍と高率であることが研究によって明らかにされてきました。ASDの兄弟がいる子どもを「ASDハイリスク児」とカテゴライズして調査したいくつかの研究によって、あらたな知見が得られています。なかでも、ASDハイリスク児では、ASD以外の発達障害の発症率が20-30%ほど高いことが示され、「ASDハイリスク児を対象とした前向き研究」によって、ASD早期診断に有用となるマーカーの発見が期待されています。ASDの専門医師の診察によって、最短で生後12ヶ月から24ヶ月の間にASDの確定診断をつけることは可能ですが、12ヶ月未満で診断をつけることは難しいのが現状です。しかし、生後12ヶ月未満、可能であれば生後6ヶ月で確定診断ができるとなれば、発症前の治療介入によって、将来心配される行動障害の程度をさらに軽減できるのではないかと期待されています。さて、乳児の診断となると、その症状から診断するのではなく、全く別な角度からの診断法を確立する必要があります。
 
「ASDと診断されたこどもを対象にした後ろ向き研究」によって、生後4ヶ月から6ヶ月時の「脳容積」が、健常児と比べて大きいことが明らかとなっています。2013年、MRIを用いた前向き研究(文献2)が行われ、ASDハイリスク児33人とASDのローリスク児22人(兄弟のASDのいるこども33人と、いないこども22人)を解析した結果、24ヶ月後(平均32.5ヶ月児)にASDと診断された10人は、ASDと診断されなかった子と比較して、12-24ヶ月の時点で、すでに脳容積がより大きいことがわかり、「脳容積が早期診断のマーカーとなる可能性」が示唆されました。今回、1)調査対象者数を増やし、2)ASDハイリスク児の脳MRI画像解析が行われ、3)6-12ヶ月の間のMRI脳画像分析によって、将来のASD発症を高率かつ、正確に的中させられる、と医学誌Natureで発表され(文献3)国際的に大きなニュースとなっています。
研究を施行したのは、アメリカ合衆国ノースカロライナ大学のピベン博士らのグループです。研究対象者は、ASDハイリスク児318人(参考:生後24ヶ月時点で、70人がASDと診断され、248人はASDの診断がつかなかったかた)と、117人のASDローリスク児(参考:生後24ヶ月時点で、1人もASD診断はつかなかった)でした。
 
ASDハイリスク児は、ASD診断のついた群(A群)と診断のつかなかった群 (B群)に分けられました。A群、B群、ASDローリスク群(C群)の比較から、グループ間において、人種差(85%が白人)、親の収入差、出産時の母の年齢差(平均33歳)、出生体重(平均3.6Kg)、及び出産期間(平均39週)に差は認められませんでした。
 
ASDと診断されたこどものうち、男児の割合は83%でした。またASDハイリスクでASDでないB群の男児の割合は57%、ASDローリスクの男児の割合は、59%でした。C群の母親の教育歴は、ASDハイリスク群(A、B)よりも有意に高い傾向にありました。
 
行動の詳細アセスメント(ADOSとCSBSを使用)、及び脳MRIは、生後6ヶ月、12ヶ月、24ヶ月の段階で施行されました。全3回のMRI解析が有効とされた15人のASDのこども、91人のASDハイリスクだがASDでないこども、42人のローリスク群のこどものデータが用いられました。
 
結果
 
「脳容積の増加率」
 
6-12ヶ月間では、3群間に相違を認めませんでした。しかし、生後24ヶ月で、A群は、B群及びC群と比較して有意に脳容積の増大を認めました。A群の「脳表面積」は、6ヶ月から12ヶ月の時期に、B、C群と比較して有意に大きくなっていました。特に、中後頭回、右楔部、及び右舌状回の脳表面積の増大が顕著でした。皮質厚は、群間差を認めませんでした。6-12ヶ月の間の「脳表面面積拡大速度」は、24ヶ月の段階での脳容積と相関していることが、すべての群およびA群とB群の混合群のいずれでも認められました(いずれもP<0.001)。A群で、6-12ヶ月の脳表面積発達に、「脳部位特異的な差」を認めました。24ヶ月の段階でASDと診断された15人には、脳の発達過程の顕著な特徴、すなわち、第一に「脳表面積増加が6-12ヶ月の間」に生じ、第二に、「脳容積の増大が12ヶ月から24ヶ月の間」が生じていたことが明らかになりました。
 
「脳容積と社会性欠如、コミュニケーション能力の欠如との相関」
 
ASDハイリスク群(A・B群)では、6-12ヶ月の間の脳容積の変化率とADOSとの間に相関はないものの(P=0.06)、12-24ヶ月の間で「脳容積変化率とADOSとの間に相関」を認めました(P=0.03)。さらに分析をした結果、脳容積変化率は、ADOSスコアの「社会性の欠如」との間に相関を認め(P=0.01)、一方で、「繰り返し行動のスコア」との間には相関を認めませんでした(P=0.31)。「社会性の欠如」は、CSBS法を用いた評価でも、6-12ヶ月の脳容積変化とは相関がなく(P=0.17)、12-24ヶ月の脳容積変化と有意な正の相関を認め(P=0.02)、ADOSによる評価と同様の傾向を得ました。
 
次に、人工知能による深層学習として、6ヶ月、および12ヶ月時の1)3つの脳MRIデータ(脳表面積、脳体積、皮質厚)2)性別のデータから、24ヶ月時のASD診断を鑑別可能か否かについて分析がおこなわれました。その結果、10回の交差検証を経て、「的中率81%」、「センシティビティー88%」のアルゴリズムが完成しました。深層学習の主なデータベースとなったのは6ヶ月の時点での脳表面積、特に、「左右の上前頭回」、「中心後回」、「下頭頂回部位」、「頭蓋内容積」が用いられました。
 
以上から、「生後6ヶ月という早い段階で、脳表面積の増大」が生じ、続いて「生後12ヶ月頃から、脳容積の増大」が生じ、その後、徐々に「社会性の欠如の症状が現れる」可能性が示唆されました。特に、「センソリー・プロセッシング(感覚処理過程)」を司る「左中後頭葉の脳表面積の増大」が認められたことは、「早期に生じるセンソリープロセッシングの異常がASD発症と最も関係している」というこれまでの知見とも一致すると、著者らは主張しています。
すでに報告されている「自閉症を発症させた遺伝子改変動物モデルで認めた発達段階における脳皮質の神経前駆細胞が激増」は、今回の結果を支持するものとなっています。
 
さて、今回は深層学習の主たるデータに、後頭葉部位が含まれず、主張に不明瞭さが残ります。独立した別のサンプルを用いた実験系で、今回得られたアルゴリズムの正当性の検証は必至であることは、著者らも認めているところです。遺伝性の自閉症児を対象にして、この研究で得られたアルゴリズムが合致するのかどうかをまず検証するべきだと私自身、思うところです。

自閉症の診断年齢が「4歳前後」という現状によって、介入の可能性を低減させていることは明らかになりつつあります。しかしより早い時期に鑑別診断ができる専門家の数を増やすには医療政策上時間がかかることでしょう。今回、脳MRIの有効性がしめされASD早期診断の可能性に現実味がでてきたのではないでしょうか。就寝中なら乳幼児でもMRI撮影は可能です。ハイリスクASD児を対象とした脳表面積測定をすることは実現可能ではないでしょうか。そして、早期の診断によって「ASD児に対する家族・周辺の理解」が相互にとってどれほど意味があるのか、その利益は計り知れないものだ、ということ、あらためて強調したいと思います。
 
文献1
Pickles, A., Le Couteur, A., Leadbitter, K., Salomone, E., Cole-Fletcher, R., Tobin, H., ... & Aldred, C. (2016). Parent-mediated social communication therapy for young children with autism (PACT): long-term follow-up of a randomised controlled trial. The Lancet, 388(10059), 2501-2509.
 
文献2
Shen, M. D., Nordahl, C. W., Young, G. S., Wootton-Gorges, S. L., Lee, A., Liston, S. E., ... & Amaral, D. G. (2013). Early brain enlargement and elevated extra-axial fluid in infants who develop autism spectrum disorder. Brain, awt166. Brain (2013) 136 (9): 2825-2835. 
 
文献3
Hazlett, H. C., Gu, H., Munsell, B. C., Kim, S. H., Styner, M., Wolff, J. J., ... & Collins, D. L. (2017). Early brain development in infants at high risk for autism spectrum disorder. Nature, 542(7641), 348-351.
 
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