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愛し野塾 第115回 生体吸収されるステントへの期待とその検証

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心筋梗塞、及び狭心症にかかる医療費は、年間7,000億円を超えるといわれています(平成26年度分について、2016年11月発表資料による)。これは全医療費の2%前後を占め、もはや「心臓疾患」は、欧米諸国に特異的なものではなく、わが国でもメジャーな疾患となりつつあるのです。
急性心筋梗塞を発症した患者のうち14%は、病院に搬送する前に心停止するといった統計を含め、発症から30日以内の死亡、いわゆる「急性期死亡」は、全体の6―7%と推定されています。このような「致死率の極めて高い疾患」ですから、その原因とされる「冠動脈の狭窄部位」を、病状の安定している時期にあらかじめ発見し、予防的に治療をほどこし、心筋梗塞を未然に防ぐこと、また、心筋梗塞を発症しても、早期にカテーテル治療などにより血流を回復させることは、「命」を救う観点から大変重要な課題です。
 
さて、手術をして冠動脈の狭窄部位を治療する「バイパス術」は、有効な手段とはいえ、侵襲の大きい処置です。そこで体に負担のかからない治療法である、カテーテルを用いた「ステントによる治療」が開発され、現在、「冠動脈ステント術」は、極めて侵襲の少ない、安全性の高い治療として確立され、治療の現場で席巻するようになりました。
 
そのステントがさらなる進化を遂げたというので、今、臨床の現場で大きな話題となっています。従来の金属製から非金属製へと素材を変えることで、「生体内に残るステント」から「生体内から消えるステント」へと変化を遂げつつあるのです。
昨年11月、アボット社製の「生体吸収される冠動脈ステント」が製造承認(商品名、アブソーブ)されました。従来のステントは、「金属製」であるため、血管本来のもつ運動機能を妨げること、将来的に治療の選択肢が限定されること、また、時間経過とともに再度狭窄をきたすのではないか、という懸念が次の課題として挙げられていました。発表された、「生体吸収されるステント」は、ステント植え込み後3年程度で生体内で分解され、消失されるのです。そのため生来、血管のもつ運動機能を保持し、時間とともに生じるかもしれない狭窄の回避に役立つと考えられています。なにより血管内に金属が残っている事実そのものに心理的違和感を感じている患者の不安を取り除くことは、心身のQOLに大変有効ともいえるのではないでしょうか。
生体吸収される冠動脈ステントは、正式には、「生体吸収性薬剤溶出スキャフォールド」と呼ばれています。今回承認されたデバイスは、網目状のチューブ形で、留置後体内で吸収され、消失されることから、体内に永久的に留置物が残る「従来型の金属製ステント」とは異なり、「仮設構造物」を意味する、「スキャフォールド」と呼ばれているのです。「スキャホールド」の構成成分は、外科術において、すでに重用されている「吸収性縫合糸」にも汎用されている「ポリラクチド(ポリ乳酸)」で、高い生体適合性が証明されている素材です。
 
従来の「金属製ステント」には、動脈硬化予防のための薬剤(エベロリムスなど)が塗りこまれ「薬剤溶出性」ステントと呼ばれ、経皮的冠動脈インターベンションにおける標準治療となっています。しかし、少ないながらもステントに血栓形成が認められたり(年率0.1%から0.2%)、再度血管形成術を施行しなければならない症例が、2から3%の割合(年率)で認められることが問題となっていました。生体吸収されるステントの場合、理論的には、「血管機能の回復に寄与」し、「血栓形成しにくい」のではないか、と考えられています。治療後1年経過後の成績は、「病変治療成功率」について、生体吸収型ステント「アブソーブ」と薬剤溶出性ステント「ザイエンス」の間では、有意差は認められませんでした。しかし、その後の検証から、デバイスの血栓形成については、「生体吸収型のほうが、有意に多かった」と報告され、にわかに混乱が生じてまいりました。昨年ランセットに発表になったメタアナリシス(文献1)では、6本の研究を対象に、3,738人のデータを解析し、エベロリムス溶出生体吸収ステント(2337人)とエベロリムス溶出金属ステント(1401人)に無作為に割り付けたデータが発表になりました。平均観察期間は1年で、生体吸収ステントでは、1.99倍のステント血栓(P=0.05)形成を認め、術後1日から30日経過で、さらに3.11倍の血栓形成(P=0.02)がありました。
 
今回、2,000人近い患者を対象に、安全性と有効性について、より厳密な手法を用いて調査された「生体吸収」型ステントの治療成績が医学誌NEJMに発表され注目されています(文献2)。オランダ•アムステルダム大学のワイコースツカ博士らの研究成果です。研究はアボット社の資金援助を受け施行されました。
 
1,845人の患者を対象に、924人を生体吸収ステント、921人を金属ステントに無作為に割り付け、検討が行われました。一次評価項目は、心臓死、治療血管による心筋梗塞、治療血管の再血管再建術施行の複合としました。試験期間中ではありましたが、得られた安全性に関するデータへの懸念から、監視委員会が内容を公表するように勧告し、論文発表となったのです。経過観察期間の中央値は、707日でした。一次評価項目は、2年の期間でみると、生体吸収ステントで11.7%、金属ステントで10.7%でした(P=0.43)。ステント血栓形成は、生体吸収型で3.5%、金属型で0.9%でした。つまり生体吸収型で3.87倍も血栓形成リスク有意に高くなるという結果でした(P<0.001)。
 
大きな期待を背負って市場に出た生体吸収型ステントでしたが、残念ながら、これまでの研究結果によりもたらされた懸念が改めて確認された形となりました。
問題点としては、圧強度が弱く、サイズが比較的大きいため、細い冠動脈に挿入する際に以下のようなテクニカルな問題が存在することです。まず、バルーンと血管のサイズを1:1の大きさに合わせる必要があるため、事前に、血管内エコーなどで精密に血管サイズの評価を要すること、第二に、しっかりと血管を拡張する必要があり、処置に時間がかかることがわかっています。
 
今後、生体吸収型ステントの臨床での汎用に際し、以下の改善が求められと専門家は述べています(文献3)。「より薄型あるいは、幅の狭いステントにすること」、「素材を変えて、圧強度を上げ、よりスピーディーに吸収される」ようにすること。
こうした改善ができた暁には、体に金属が残らない、かつ、安全なステントが主流を占めることになるでしょう。それまでは、現状の金属ステントでしばらく我慢の時期が続きそうです。しかし、やはり金属が体の中に残るのは、10から20年いや、30年の長きにわたるとなるとなんらかの健康被害があるのではないか、と言った懸念も拭えません。いずれにせよ、医療技術の進歩は日進月歩とはいえ、あらゆる角度から検証をすることによって、確実に次のステップへの足固めをすることで、次世代に残すべきものを残せるのではないか、と考えさせられた論文でした。
 
 
 

 
 
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