記事一覧

愛し野塾 第119回 ダイエット飲料の脳卒中・認知症発症リスク

img_1132.jpg

ソフトドリンクの過剰摂取は、子供や青少年の肥満、そして中年層ではメタボリック症候群に悪影響を及ぼすことはご存知の通りです。2007年、フラミンガム心臓研究で(文献1)、6,039人(女性3,470人、平均年齢52.9歳)を対象に、メタボリック症候群のないかたが、性別、年齢、運動量、喫煙、飽和脂肪酸摂取量、ファイバー摂取量、トランス脂肪酸摂取量、マグネシウム摂取量、グリセミックインデックス、摂取カロリーの項目について厳密に補正した上で、1日あたり、ソフトドリンクを 「1回以上の摂取」と「1回未満の摂取」の両者を比較した結果、48%ものメタボリック症候群の発症率の上昇を認めました(発症率21.6%対17.8%)。ソフトドリンク、つまり、人工甘味料入りの飲み物や、砂糖で甘み付けした飲料は、心臓血管病リスク因子を悪化させ、結果的に、脳卒中や認知症発症を促進させうることが実証された研究となりました。その後、300万人以上を対象とし、脳卒中を発症した4,000人以上の集団を分析した結果、ソフトドリンクを「1日1回以上摂取する集団」は、「一回未満摂取の集団」に比較して、16%も有意に脳卒中発症を認めたと発表されました(文献2)。しかし、一方で、ダイエットソフトドリンクでは、脳卒中発症率は43%上がるものの、レギュラーソフトドリンクでは、脳卒中リスクは上がらない(文献3)との見解もあり、この議論は混乱してました。また、認知症発症との関連性は未だ不明なところです。今回、フラミンガム心臓研究を用いて、ダイエット用とレギュラー用のソフトドリンクの摂取と、脳卒中及び認知症発症の10年リスクを試算した結果が発表され、注目されています(文献4)。 
  
フラミンガム心臓研究は、米国マサチューセッツ州のフラミンガムで始まった、コホート研究の草分けとされます。1971年に開始され、当初、5,124人のかたが登録されました。約4年サイクルを1期として、新たな研究がなされており、すでに9期にわたる研究が遂行されてきました 。最新のものは、2014年に終了しています。第7期(1998年から2001年)から、脳卒中と認知症の10年リスク試算の検討が開始され、脳卒中研究の対象者の条件から、脳卒中の人、神経疾患を持つ人、45歳未満のひとは除外され、認知症研究の対象者の条件から、すでに認知症を患っている人、軽度認知障害の人(MCI)、その他神経疾患の罹患者、60歳未満のかたが除外されました。脳卒中研究には、2,888人、認知症研究には、1,484人の登録がありました。 
  
方法 
ソフトドリンク摂取の定量化は、ハーバード半定量食物摂取頻度調査票(FFQ)が用いられました。FFQの「方法の妥当性」を明らかにするために、実際の食事記録との整合性を求めたところ、コカコーラやペプシ摂取の相関係数は0.81となり、良好な相関を認めました。また、継時的な摂取の違いを知る目的で、12ヶ月後に試行されたFFQとの相関も調べられましたが、コカコーラとペプシ摂取の相関係数は0.85で良好な相関を認めました。この結果からFFQは、実際のソフトドリンク摂取量を正確に反映することが確認されました。 
 
結果 
(A)甘味飲料全体の摂取量と(B)人工甘味料入りソフトドリンク摂取量のそれぞれに検討が加えられました。(A)では、摂取量が増えるに従い、カロリー摂取も増加しました。しかし、糖尿病と心血管病の比率は逆に減少しました。(B)では、摂取量が増えるに従いカロリー摂取は変わりませんでしたが、糖尿病と心血管病の比率は、増加する傾向がありました。 
 
<脳卒中について> 
(A)摂取量の増加にともない、脳卒中の発症比率に違いは認めませんでした。 
(B)飲まない人と、一日一回以上飲む人を比べると、年齢、性別、カロリー摂取、食事の内容、運動量、喫煙で補正後、1.87倍(P=0.10)の発症リスク増大傾向を認めましたが、統計的な有意差はありませんでした。しかし、虚血性脳卒中は、2.96倍(P=0.01)と、有意に発症リスクの上昇を認めました。 
 
<認知症について> 
(A)摂取量の増加にともない、認知症の発症比率は変わりありませんでした。 
(B)飲まない人と、一日一回以上飲む人を比べると、年齢、性別、カロリー摂取、教育レベル、食事の内容、運動量、喫煙で補正後、2.89倍(P=0.02)の発症リスク増大を認めました。 
 
さて、砂糖で甘み付けされたソフトドリンクは、飲んだ直後に血糖が上昇し、インスリン分泌も促されやすいことから、「糖尿病の発症リスクが高く、したがって脳卒中、認知症へのリスクも高い」と予測されたものの、 実際の結果は、「糖尿病は少ない、脳卒中、認知症発症を増やさない」ことが明らかとなり、今後、この理由については検討が必要でしょう。 
 
一方、「人工甘味料入りソフトドリンク摂取が認知症リスクを上昇させる」というメカニズムについては、「インターラクション解析」の結果から、「糖尿病の関与が疑われる」と著者らは主張している一方で、糖尿病のひとが、血糖値の上昇を避けようと、人工甘味料入りソフトドリンクを飲む頻度が上がる可能性も否定できないと示唆しています。また人工甘味料は、マウスの実験から、腸内フローラを変化させ 耐糖能を低下させることがすでに報告されている点も見逃せません(文献5)。ヒトでも、マウス実験結果と同様に人工甘味料摂取が腸内フローラの変化に影響するのかについて今後の検討が待たれます。また、メタアナリシスから、人工甘味料は糖尿病の発症リスク要因となりうるという結果も得られています。
 
人工甘味料入りソフトドリンクが、「脳卒中だけでなく、認知症発症要因にもなりうる可能性」を示唆した今回の結果は、安易に手の届く「ダイエット 」と冠されたソフトドリンクの暗部を照らし、「保護されるべき健康な認知機能」という市民の利益を損なうことのないよう、警鐘として捉えるべきだ、と感じるところです。 
 
文献1)Dhingra, R., Sullivan, L., Jacques, P. F., Wang, T. J., Fox, C. S., Meigs, J. B., ... & Vasan, R. S. (2007). Soft drink consumption and risk of developing cardiometabolic risk factors and the metabolic syndrome in middle-aged adults in the community. Circulation, 116(5), 480-488. 
 
文献2)Bernstein, A. M., de Koning, L., Flint, A. J., Rexrode, K. M., & Willett, W. C. (2012). Soda consumption and the risk of stroke in men and women. The American journal of clinical nutrition, ajcn-030205. 
 
文献3)Gardener, H., Rundek, T., Markert, M., Wright, C. B., Elkind, M. S., & Sacco, R. L. (2012). Diet soft drink consumption is associated with an increased risk of vascular events in the Northern Manhattan Study. Journal of general internal medicine, 27(9), 1120-1126. 
 
文献4)Pase MP1, Himali JJ2, Beiser AS2, Aparicio HJ2, Satizabal CL2, Vasan RS2, Seshadri S2, Jacques PF2. Sugar- and Artificially Sweetened Beverages and the Risks of Incident Stroke and Dementia: A Prospective Cohort Study. Stroke. 2017 May;48(5):1139-1146. doi: 10.1161/STROKEAHA.116.016027. 
 
文献5)Suez, J., Korem, T., Zeevi, D., Zilberman-Schapira, G., Thaiss, C. A., Maza, O., ... & Kuperman, Y. (2014). Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature, 514(7521), 181-186.
 
 
 
新着情報一覧へ戻る

  • 糖尿病
  • 内科
  • 心療内科
  • 小児科
  • リハビリ科