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愛し野塾 第134回 最新研究が証明する「医食同源」

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古来より「医食同源」といわれるように、「食事療法」は、より健康に寿命を全うするために、また、あらゆる慢性疾患を予防するために、古来より現在に至るまで、最適な手段とされ、健康医学界においても、もっとも活発な研究分野のひとつです。「栄養・食事療法」の研究分野では、2013年のエストラフ博士のNEJMの発表以来、糖質、たんぱく質、脂質といった個々の栄養素に注目した食事療法よりもむしろ、「食事全体のパターン」として、どういった食事療法が有効かという研究が、近年では盛んになっています(Estruch, R.,ら(2013). Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. New England Journal of Medicine, 368(14), 1279-1290.)。さて、このエストラフ博士の研究では、「地中海食」を厳守することによって、脳卒中や心筋梗塞などの一次予防での効果が30%も上がることがつまびらかにされ、世界に衝撃を与えたことは、記憶に新しいところです。

「地中海食」は、加工されていない食事を基本として、主に、果物、野菜、全粒穀物、魚、オリーブオイルを中心とし、一方で、ファーストフード、砂糖で甘み付けした飲み物、製粉した食品、加工品、高カロリー食品、赤身肉を避けるものです。地中海食に準拠した食事パターンとなっているかどうかの評価は、「地中海食スコア」で検討され、「スコアが高いほど、心血管病発症リスクや死亡率リスクが低い」というポジティブな評価となります。そのほか、汎用性のある食事パターンを評価するツールとして、DASHスコア、Alternate Healthy Eating Indexがあります。これらも食事パターンの評価スコアが高いほど、各リスクの低下を意味し、すでに、食事パターンの評価スコアの上昇に伴い、死亡率が8-22%低下、心血管病の死亡率は、19-28%低下、がんによる死亡は、11-23%低下することが確認されています。2015年、米国食事ガイドラインでは、主に3つのスコアについて指摘し、スコアが高くなる食事療法を、勧めています。さて、今回、食事パターンの継続性及びスコアが、死亡率に及ぼす影響が、これらスコアを指標にして検討されました。ハーバード大のフー博士らによりNEJMにこの7月13日に発表されたこの研究結果(Hu, F. B. (2017). Association of Changes in Diet Quality with Total and Cause-Specific Mortality. New England Journal of Medicine, 377(2), 143-153.)は大変興味深いものでしたので、報告します。

 

対象と方法

2つのコホート:「ナース・ヘルス・研究」と「ヘルス・プロフェショナル・フォローアップ研究」を調査対象としました。「ナース・ヘルス・研究」は、1976年に開始され、30歳から55歳までの12万1,700人の女性ナースが参加、「ヘルス・プロフェッショナル・フォローアップ研究」は、1986年に開始され、5万1,529人の40歳から75歳までの米国の男性医療従事者が参加しました。質問票は、2年おきに送付され、生活や病気に関する情報が収集されました。2つのコホートともに、フォローアップ率は、90%を超えました。

今回の研究では、1986年を基本年とし、1998年を食事の質の変化の検討の年と設定されました。フォローアップは、2010年に終了し、また1998年よりも前に、心血管病あるいは癌に罹患した人、食事、ライフスタイルに関する情報がない人、カロリー摂取の極端に多い人、少ない人、1998年よりも前に死亡された方は除外され、最終的に対象となったのは、男性2万5,745人、女性4万7,994人でした。

 

結果

Alternate Healthy Eating Indexを用いて、12年間のスコアの差を求め比較検討しました。スコア上昇率の最も高い集団の性質は、スコア変化を認めない集団に比較して、年齢が若い、開始当時からスコアが低い、より運動を多く行う、よりアルコール摂取量が少ない、全粒・野菜・オメガ3脂肪酸の摂取量が多い、塩分摂取が少ないといった傾向を認めました。Alternate Mediterranean Dietと DASHスコアを用いた検討結果からも同様の傾向が見出されました。

Alternate Healthy Eating Indexを用い、死亡率変化を求めた結果、12年間で、スコアが最も上昇した集団(13-33%改善)では、スコアに変化を認めない(0-3%)集団に比較して、死亡率は9%低下し、Alternate Mediterranean Dietによって、同じく16%低下、DASHによって、11%の低下を認めました。逆に、食事の質が落ちることによって、死亡率は上昇傾向を認めました。それぞれの評価法で、12%、6%、6%(Alternate Healthy Eating Index、Alternate Mediterranean Diet、DASH)という結果が得られました。

連続解析から、12年の間に20%のスコア改善に達した群では、8-17%の死亡率低下を認めました。そのうち、心血管病を原因とする死亡率は、Alternate Healthy Eating Index、Alternate Mediterranean Diet、DASHスコアで検討すると、15%、7%、4%の低下をそれぞれ認めましたが、DASHスコア改善に対する死亡率の低下には統計的有意差は得られませんでした。がんを死因とする死亡率の変化は、Alternate Healthy Eating Index、Alternate Mediterranean Diet、DASHスコアでそれぞれ6%、2%、9%の低下を認めましたが、統計的有意差を得られたのは DASHによるスコア分析のみであり、肺がんによる死亡率減少が主たるものでした。

開始時に最低レベルのスコアを記録したものの、12年で最大の伸びを示した群では、Alternate Healthy Eating Index、Alternate Mediterranean Diet、DASHスコアのすべで、それぞれ15%、23%、28%の死亡率の低下が認められました継続的にスコアが高い群では、それぞれ、14%、11%、9%の死亡率低下を認めました。調査期間について、8年及び、16年という期間で検討した結果、それぞれ11%、26%の死亡率低下に達し、すなわち、20%のスコアの高さをより継続的に維持することで、より高い健康上の効果を認めることが明らかになりましたが、個々の項目を調査した結果、心血管病による死亡率抑制効果は顕著に認められたものの、がん死の死亡率抑制については、3つのいずれもスコア改善による効果を認めませんでした。

交絡因子の検討から、女性については、マンモグラフィー検査歴を、また、男女ともにでは、健康診断受診状況、アルコール摂取状況、喫煙歴を考慮しても、同様の結果が得られました。

 

 考察

3種類の評価スコアの改善に伴う死亡率の改善を認めたことから、これら3つに共通する「全粒、野菜、果物、魚、オメガ3脂肪酸」の摂取率の高さと死亡率低下効果の関係があらためて浮き彫りにされました。

さて、具体的事例を挙げてみましょう。例えば、Alternate Healthy Eating Indexで20%改善(110点満点で22点の改善)はどのような食事変化を指すのでしょう。ナッツや豆の摂取を、ゼロから1サービング(ピーナッツでいうと28個に相当)増やし、かつ、赤身肉あるいは加工肉の摂取を1.5サービング(150グラムの赤身肉に相当)を超えて摂取しない、というと、さほど苦しくはない努力ではないでしょうか。

DASHスコアの評価で、心血管病死の予防効果に有意差を認めなかった理由に、魚の摂取・アルコールの摂取がスコア項目にない点が指摘されています。今後、詳細な検討が必要でしょう。

また、がん死亡率に対する、食事療法による低減効果は、今回は不明瞭でしたが、未だ議論のあるところです。最近の研究報告の中には「大量の野菜と果物の摂取(1日に800グラム)に、がん死亡率抑制効果がある」との報告もありますが、今回の論文では、3つの評価法を用いて調査検討した上で、がん死予防は食事療法では難しいという結果となりました。引き続き、がん死亡率を減少させる食事療法についてあらゆる観点からの議論が求められることは言うまでもありません。

いかにせん、「全粒、野菜、果物、魚、オメガ3脂肪酸」の適量、かつ持続的な摂取を強く意識することは、また今すぐにでも、実現可能であることは明らかです。毎日の少しの食事への心がけは「雨だれ石をも穿つ」、一見避けようのない困難も静かになしくずしてゆけるかもしれませんね。

 
 
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