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愛し野塾 第141回 新規糖尿病薬の知見(SGLT2特異的阻害の重要性)

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「糖尿病の合併症」といえば、「腎症・神経症・眼症」の3大合併症をまず頭に思い浮かべるかもしれません。しかし、生命リスクの観点から、細心の注意を払わなければならないのは、むしろ脳卒中・心筋梗塞に代表される「心血管病」の合併症である、と言っても過言ではないでしょう。死に至らずとも、日常生活自立度を低下させ、介護が必要になるなど、「心血管病」は、自立した生活の営みに甚大な影響を及ぼす「糖尿病合併症」です。

このため、この合併症の発症、及び進展の抑制を目的として、様々なトライアルが行われてきました。かつて「血糖正常化が合併症抑止の最善策である」という仮説のもと、大規模試験が行われました。しかし、残念ながら、「血糖を正常化する過程で生じる低血糖頻度の増加がもたらしたと考えられる死亡率の上昇」を認め、「糖尿病薬による心血管病抑止の可能性」という課題は一時保留されていたかのようでした。しかし、新規薬剤「SGLT2阻害剤」の開発によって、血糖をそれほど下げなくても、合併症が抑止できることが発表されたのです。

この薬は、尿中への糖の排泄を促進することで、血糖を下げるだけでなく、血圧低下、及び体重低下などの代謝改善作用を促します。2015年に発表された「EMPA-REG試験」の結果、SGLT2阻害剤の一つである「エンパグリフロジン」が、心血管死を38%低下させる効果がある、ということがわかりました(1)。2017年夏には、「CANVAS試験」の結果が発表され、別種のSGLT2阻害剤である「カナグリフロジン」にも、心血管病死の抑止効果が13%あることがわかりました(2)。加えて、北欧3カ国で行われた実臨床の観察研究(CVD-REAL NORDIC)では、約9万人の糖尿病患者を対象に、初期にSGLT2阻害剤(ダパグリフロジンが94%を占めるが、その他、エンパグリフロジン、カナグリフロジンを含む3種)を投与した場合と、そのほかの血糖降下剤(経口剤、注射剤)を投与した場合で比較検討され、その結果、SGLT2阻害剤は、他の血糖降下剤に比較して、心血管病死亡を47%も低下させたことが発表されました(3)。

こうしてSGLT2阻害剤の優れた心血管合併症の抑止効果は、確立されてきました。日本で使用出来るSGLT2阻害剤は、欧米で販売されている3種だけでなく、さらに3種類加えて、総計6種類となっています。SLGT2阻害剤全般が優れた心血管病抑止効果を有する可能性は高く、今後は使用頻度が高くなることが予想されます。

一方で、SGLT2阻害剤の利点を、安全性を確保しながら最大限活用するためには、「薬剤の副作用」の検証は欠かせません。実は、CANVAS研究で用いられた「カナグリフロジン」が四肢切断リスクを上昇させることが明らかとなり、SGLT2阻害剤全般に、四肢切断リスクがあるのか否かは、大きな関心事となっていました。

先ごろ、医学雑誌ランセットで、「まったく異なるデータソースに基づいた検証によって、カナグリフロジンの下肢切断のリスク上昇作用を確認したが、このリスクは他のSGLT2阻害剤使用では認められなかった」と報告されました(4)。CANVAS試験において、「カナグリフロジン」投与症例の四肢切断のリスクは、プラセボの2倍にも達しましたが、「エンパグリフロジン・ダパグリフロジン」投与症例では、同様のリスクは認められませんでした。そのため、この有害事象が、SGLT2阻害剤全般にわたる副作用なのかどうか、の検証が求められていました。

研究は、イタリアのパドア大学のファディニ博士らによって行われました。すべてのSGLT2阻害剤と、四肢切断術を施行された症例について、米国FDAの有害事象報告システムを用いて検討されました。2017年3月31日までの有害事象報告数は、921万7,555件でした。SGLT2阻害剤関連の四肢切断事例は、66例で、そのうちの57例(86%)が、カナグリフロジンの関与が疑われました。事例の平均年齢は約60歳、男性が大半を占めました。データ詳細検討が困難であった2例を除いた64例を調査をした結果、57例は、SGLT2阻害剤がもっとも疑われる原因薬剤として評価されました。

薬剤の平均使用期間は約1.5年で、対象となった症例のうち11%がもともと糖尿病性足病変を有していました。

有害事象の詳細については、外傷・壊疽・壊死・虚血が14例、骨髄炎や感染症が15例でした。最も多くみられましたのが、足の指の切断で、13例が足首よりも上のレベルでの切断、2例が複数個所の切断で、1人が手の切断が報告されており、3人の死亡例も認めらました。

カナグリフロジンによる、四肢切断の発症率は、1,000例あたり3.4例でした。これは非SGLT阻害剤による四肢切断発症率の5.33倍(P<0.0001)でした。ダパグリフロジンによる四肢切断発症率は、非SGLT2阻害剤による四肢切断発症率の0.25倍(P=0.163)、エンパグリフロジンの場合は2.37倍(P=0.054)でした。これらの結果から、カナグリフロジンによる四肢切断発症率の上昇は、SGLT2阻害剤によるクラス効果ではなく、カナグリフロジンに特異的に認められることが明らかにされました。

では、なぜ、カナグリフロジンは、ダパグリフロジンや、エンパグリフロジンと異なる有害事象を発症させてしまったのでしょうか?

著者らは、次のように考察しています。末梢動脈の病変や神経病変を有する糖尿病患者は、脱水をきっかけとした組織への還流の悪化が生じやすいことから組織の壊疽に発展する可能性が高く、SGLT2阻害剤の使用によって脱水が誘発され、結果として四肢切断を招いたのではないか、という短絡的な考えに陥りやすいだろう。しかし、実際に脱水症状を呈していたのは、四肢切断をした症例64例のうちのわずか3例でありこの推察は見当違いではないか、と述べています。

また、SGLT2阻害剤使用前には、糖尿病性足病変をきたしていた患者が少なかった(40%未満)という事実から、認められた四肢病変は、新たに生じた可能性が高いと考えられます。ダパグリフロジンやエンパグリフロジンにはない特徴で、カナグリフロジンに特異的な作用を解明することが必要です。

カナグリフロジンは、SGLT2阻害だけでなく、SGLT1も阻害する作用を比較的高く有し、SGLT1阻害作用と比べて、SLGT2阻害への特異性は、ダパグリフロジンに比べて7.4倍低く、エンパグリフロジンの17倍低いことが報告されています。こういった作用機序における低い特異性によって、腸管でのSGLT1阻害作用から、腸管での糖の取り込みが阻害され、腸内細菌叢に影響し、腸管pHは酸性化し、結果として、腸管からのカルシウムの吸収が促進すると考えられます。事実、動物実験だけでなく、患者症例でも、カナグリフロジン投与による血中カルシウムの増加を認めています。

血中カルシウム代謝異常が誘発した末梢動脈病変によって、血管抵抗は増大、また微小循環の障害が生じ、動脈閉塞を起こしやすくなります。これがカナグリフロジンの使用による四肢切断増加のメカニズムとして考えられるのです。

こうした考察から、本研究の筆者同様、現段階では、SGLT2阻害剤を処方する際には、期待する「心血管病変抑止効果」を最大限発揮させるために、SGLT1阻害効果を抑えたSGLT2を特異的に阻害する薬の処方を検討する方が、望ましいのではないか、考えるところです。

 

 

(1)Zinman, B., Wanner, C., Lachin, J. M., Fitchett, D., Bluhmki, E., Hantel, S., ... & Broedl, U. C. (2015). Empagliflozin, cardiovascular outcomes, and mortality in type 2 diabetes. New England Journal of Medicine, 373(22), 2117-2128.

 

(2)Neal, B., Perkovic, V., Mahaffey, K. W., de Zeeuw, D., Fulcher, G., Erondu, N., ... & Matthews, D. R. (2017). Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes. N Engl J Med 2017; 377:644-657August 17, 2017DOI: 10.1056/NEJMoa1611925

 

(3)Birkeland, K. I., Jørgensen, M. E., Carstensen, B., Persson, F., Gulseth, H. L., Thuresson, M., ... & Bodegård, J. (2017). Cardiovascular mortality and morbidity in patients with type 2 diabetes following initiation of sodium-glucose co-transporter-2 inhibitors versus other glucose-lowering drugs (CVD-REAL Nordic): a multinational observational analysis. The Lancet Diabetes & Endocrinology, 5(9), 709-717.

 

 (4)Fadini, G. P., & Avogaro, A. (2017). SGTL2 inhibitors and amputations in the US FDA adverse event reporting system. The Lancet Diabetes & Endocrinology, 5(9), 680-681.


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