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愛し野塾 第152回 大腿骨近位部骨折の予防

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「骨粗鬆症」は、「骨強度の低下を特徴とし骨折のリスクが増大した骨格疾患」と定義され、予防、及び治療の必要な疾患です。「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」によると、国内では1,280万人(男性300万人、女性980万人)の骨粗鬆症患者がいると推定されています。骨粗鬆症の合併症である「骨折」、中でも「大腿骨近位部骨折」は、日常生活を送る上で大きな支障を来し、かつ医療費のかかる骨折として注目されています。年間患者数は、148,100人(男性31,300、女性116,800人)と膨大で、この数は増加傾向にあります。また治療に関しては、手術費用は約200万円(1)で毎年10万件強の手術件数(2)ということから、手術だけで2,000億円以上、術後のリハビリなどを含めると、総額約1兆円の医療費が概算されています。イギリスでも、大腿骨近位部骨折患者は1年あたり79,000人、医療費の総額は35億ポンド(5300億円)と算定され、患者1人あたりの医療費は日本とほぼ同じく700万円前後と推算されています。骨折によって「自立した生活」が困難になることも多く、術後、完全に元の生活を送れるのは、3分の1に満たない低率です。一方で1年後の死亡率は20%という極めて高率を示す「大腿骨近位部骨折の予防」には、転倒予防だけでは不十分ということは明確で、「自立生活を支える折れない骨」に焦点を絞った骨粗鬆症対策は喫緊の問題です。

骨粗鬆症の早期発見、及び早期治療にはどうすればいいのでしょうか。残念ながら、日本で汎用されている骨密度測定は、「骨折リスク予測」には不十分で、検診に用いるには不適であることがわかっています。2004年、WHOは世界の10コホートを対象にした検証から、11の骨折危険因子を抽出しました。「年齢、性別、体重、身長、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙、ステロイド治療の有無、関節リウマチ、続発性骨粗鬆症をきたす疾患の有無、アルコール1日3単位以上、大腿骨近位部骨密度」これらの因子から構成される骨折予測式「骨折リスク評価ツール(FRAX)」が作成されました。FRAXは、日本を含む、多くの国々の骨粗鬆症治療ガイドラインにも掲載されているものの、FRAXをもとに開始した治療によって、実際、骨折予防にどの程度寄与しているのか否か、未だ検討されたことはありません。今回、イギリス・東アングリア大学のシェプストン博士らが、70ー85歳の女性を対象に、FRAXを元に治療対象者を抽出し、5年の経過を観察した論文が、「ランセット」に発表されました(3)。

<対象>

「バーミングハム、ブリストル、マンチェスター、ノーウッチ、シェフィールド、サウサンプトン、ヨーク」在住の100人の一般開業医から、対象となる女性をリクルートしました。ビタミンDやカルシウム以外の骨粗鬆症薬を服薬している症例、認知症を認める症例、骨粗鬆症の末期症例は対象から除しました。

対象者は無作為に、FRAXによるスクリーニング群と、スクリーニングをしない対照群の2グループに割り付けられました。骨密度のデータを加味しない、FRAXを用いた大腿骨近位部骨折リスク計算によって「10年あたりの大腿骨近位部骨折リスク」が算出されました。そのうち70-74歳、かつ5.18%以上を示したハイリスク群、かつDXAによる骨密度検査によって算出された「大腿骨近位部骨密度」から、10年あたりの骨折リスクが5.24%以上を示した症例に、骨粗鬆症の治療を勧めました。75-79歳では6.81%以上でハイリスク群とし、80ー84歳では8.46%以上でハイリスク群、85歳以上は、8.39%以上でハイリスク群とし、これらハイリスク群の大腿骨近位部骨密度測定が、それぞれ、6.87%、8.52%、8.99%以上の症例に治療を勧めました。これらの数値を満たさない参加者は「治療の必要なし」と郵送で通知されました。

2008年から52,033人の方がリクルートされ、調査条件に適合した38,600人に、封書で試験参加要請をした結果、研究参加に合意が得られなかった13,870人、2度の封書要請でも返事が得られなかった11,068人を除く、12,483人が研究に参加し、参加者は、対照群6,250人、スクリーニング群6,233人に無作為に割り付けられました。平均年齢は、順に75.5歳と75.4歳、BMIは、26.4と26.7、試験時の喫煙者は、両群ともに5%、転倒歴は、27%と28%、それぞれ両群間の差異は認められませんでした。

スクリーニング群6,233人のうち、3,064人(49%)がハイリスク群と評価され、DXAによる骨密度検査によって、898人が治療必要群(FRAXの平均値は17.9%、Tスコアは、-2.6)とされました。

試験開始1年目までに、骨粗鬆症治療を受けたのは、スクリーニング群で953人(15%)、対照群で264人(4%)でした。治療必要群のうち703人(78%)が治療をうけていました。5年の全観察期間中では、スクリーニング群で24%、対照群で16%の方が、何らかの骨粗鬆症薬を使用していました。

部位を特定しない骨粗鬆症関連骨折の発症率は、スクリーニング群で12.9%、対照群で13.6%と有意差はありませんでした(HR0.94、P=0.178)。一方、大腿骨近位部骨折に限定した場合、骨粗鬆症関連骨折の発症率は、スクリーニング群は2.6%で、対照群の3.5%に比較して28%有意な低下を認めました(P=0.002)。臨床的に認知された全骨折の発症率は、スクリーニング群16%、対照群15.3%と有意差を認めず(P=0.183)、死亡率はスクリーニング群8.4%、対照群8.8%と有意差を認めず(P=0.436)、不安レベルも両群に有意差を認めませんでした(P=0.515)。

<議論>

この研究に対して、試験条件に適合したにもかかわらず、対象者の約7割の参加同意が得られず、セレクションバイアスの懸念が指摘されています。本調査では、5年死亡率はわずか9%弱でしたが、これは同じ年齢層の予測死亡率である19%の半分にも満たない数値でした。また、試験参加者の「教育レベル・社会的地位」も不参加者より高い傾向がありました。こうしたことから試験参加者の高い健康志向の結果が参加同意に影響した可能性は否めません。今後は試験参加者の偏りを低減させる工夫が必要となるでしょう。

さて、最も評価されることは、28%もの予防効果をもたらした「FRAX法を用いた大腿骨近位部骨折発症の抑止」です。FRAX法によって、部位を特定しない骨折発症リスクと、大腿骨近位部骨折発症リスクの両者を予測することができますが、今回の調査では、大腿骨近位部骨折リスクに重点を置いた予防措置によって、大腿骨近位部骨折の発症率を有意に低下させました。すなわち、FRAX法を用いた一般住民スクリーニングの有効性が示され、今後、一般臨床で、大いにFRAXが用いられるようになるのではないか、と期待されます。

DXAによる骨密度検査に4,500円かかる日本では、FRAX問診との組み合わせで(FRAXが2500円程度と仮定した場合)、70歳以上の女性1,420万人に対してマススクリーニング(1000億円相当)をすることで、28%の大腿骨近位部骨折(2100億円程度)を減らせるとすれば、費用対効果から、明らかにスクリーニングを推奨する利益があると思われます。70歳を過ぎた方は、是非とも一度FRAX評価をされてみてはどうでしょうか。以下のサイト(https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.jsp?lang=jp)で簡単に自己診断も可能です(4)。FRAXの値で、骨折リスクが高いと判定された場合には、DXA検査を受けることも有用でしょうし、もちろん、骨密度をあげるべく若いうちから積極的にカルシウム摂取を増やしたり、運動習慣をつけたり、日光に当たる時間を増やしたりすることも有用でしょう。 

文献

(1)   https://www.asahi.com/articles/SDI201601227638.html

(2)   https://caloo.jp/dpc/disease/134

(3)Lancet. 2017 Dec 15. pii: S0140-6736(17)32640-5. doi: 10.1016/S0140-6736(17)32640-5. Screening in the community to reduce fractures in older women (SCOOP): a randomised controlled trial. Shepstone L et al.

(4)https://www.sheffield.ac.uk/FRAX/tool.jsp?lang=jp

 

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