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愛し野塾 第54回 私たちの免疫機構から解説するクローン病根本治療の糸口

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ご存知の通り、私たちの生体には感染症から私たちを防御するシステムが備わっています。これは「免疫反応」といわれる反応です。たとえば、身の回りに外在する細菌やカビ、ウイルスなどの体内への侵入が生じれば、たちどころに抗体などで応戦し、たいていの場合、肺炎など「重症の感染症」に至らずに済んでいるのです。まさに自然の冥利でしょう、非自己に由来する抗原でも、自己に由来する抗原でも、認識されたとたんに抗体が産生されます。細菌に対してつくりだされた抗体ならば、異物を排除し感染症を防ぎ、私たちの体にとって有益に働きますが、一方で、自己の細胞に対してつくられた抗体は、関節リウマチ、橋本病、1型糖尿病などの病気を引き起こします。しかし、こうした病気を発症しないよう、自己に不利益な抗体は、効率良く除去されることがわかっています。その機能を果たす主たる機能を果たすのが「胸腺」です。
 
口腔、皮膚、腸は、常に多量かつ多種の細菌に晒されています。決してすべての細菌が、自己にとって不利益なわけではなく、有利に働く種類のものもあります。ですから、おしなべて、細菌すべてに免疫システムをつかって応戦してしまうと、有益な細菌まで殺してしまうことになり、そのことが原因で病気を招来することもあるのです。そうした免疫制御機構の破綻によって生じる疾病の代表として、炎症性腸疾患である「クローン病」があります。こうした重症疾患の発症を防ぐためには、病原菌ではなく、自己にとって有利とされる細菌を選別し、免疫システムによって応戦しないことが重要です。その認識メカニズムは長らく不明のままでしたが、米国コーネル大学のヘップワース博士らは、<華麗な>手法を用いることで、この難問を解き明かすことに成功しました。その研究報告が、2015年5月号のサイエンスに登場しました。
 
 Hepworth, M. R., Fung, T. C., Masur, S. H., Kelsen, J. R., McConnell, F. M., Dubrot, J., ... & Eberl, G. (2015). Group 3 innate lymphoid cells mediate intestinal selection of commensal bacteria–specific CD4+ T cells. Science, 348(6238), 1031-1035. 
 
免疫には、自然免疫と適応免疫があります。前者は、好中球、マクロファージが担当し、どのような異物に対しても反応します。つまり、攻撃する相手を不特定に選ぶという意味で、特異性が低いのですが、そのかわり、異物に対して「迅速に反応」するという特徴があります。後者は、リンパ球が担当し、免疫グロブリンなどの遺伝子の再構成をすることで、抗原に対して「特異的な反応」を示しますが、逆に、準備に時間がかかるため、反応時間は遅いといった特徴をもちます。
 
最近になり、自然免疫と適応免疫の両方を兼ね備えた、「別のシステム」があることも分かってきました。このシステムを担当する細胞は、「自然リンパ球」と呼ばれています。この細胞は、免疫グロブリンなどの遺伝子の再構成をすることはできませんが、どうやら、共生している細菌を攻撃しないような仕組みを可能にする装置が備わっていることが分かってきたのです。
自己免疫疾患の発症予防のために、「胸腺」では、胸腺をなす上皮細胞が、MHCクラスIIを介して自己抗原を提示し、自己抗原に反応するCD4陽性細胞のアポトーシスを促しています。一方、「腸」では、胸腺の上皮細胞と同じ役割を、「自然リンパ球」が担っているというのです。この細胞が、細菌の抗原をMHCクラスIIを介して、提示し、細菌抗原に反応するCD4陽性T細胞のアポトーシスを誘導するため、共生する腸内細菌は、免疫細胞に攻撃されることなく、生き残ることができます。もしも、アポトーシスが誘導されず、細菌抗原に反応性のT細胞が生き残ると、炎症性腸疾患が発症するというのです。
 
実際の研究では、「自然リンパ球」の中で、MHCクラスIIを発現しているILC3細胞に注目し、この細胞にMHCクラスIIが発現できないようにしたノックアウトマウスを作成しました。このマウスでは、驚くべきことに、ヒトで認められる炎症性腸疾患と同一の症状、及び病理像を呈することがわかったのです。つまり、「自然リンパ球の機能不全が、炎症性腸疾患の原因である可能性」が示されたのでした。
 
この結果だけでは、動物実験からの類推の域を出ず、人の炎症性腸疾患との因果関係を論ずるには、まだまだ遠い道のりではないかという疑念を拭えません。しかし、ヘップワース博士らは、さらに踏み込んで、クローン病のこどもの腸の生検材料を精査し、ILC3細胞のMHCクラスIIの発現に異常があるのかどうかを調査したのでした。さて、結果は、仮説通り。動物実験から予測されたように、「MHCクラスII発現の欠如」を認めたのです。つまり、クローン病の犯人は、ILC3細胞の機能不全であることが証明されたといえましょう。
 
永いこと、クローン病は難病として取り扱われ(特定疾患に指定)、腸に狭窄病変などトラブルが生じると、消化管の切除が根治治療として唯一の方法とされてきました。過去10年を振り返ると約70%の患者さんが少なくとも一度は手術を受けておられます。日常的には病気の活動性を抑制することを目的とした動物性蛋白の摂取制限等の食事療法・薬物療法、症状のレベルに応じた対症療法としての薬物療法が中心です。本研究の結果を踏まえて、今後は、ILC3細胞をターゲットとした治療法が創成されていく可能性が広がってゆくでしょう。一番に思いつく治療方法は、患者自身のILC3細胞をいったん体外で増殖させ、もしくは活性化させ、その後、体内に戻すといった免疫細胞療法でしょう。ILC3の増殖・強化によって体に必要な細菌に反応するT細胞を破壊し、正常な腸内細菌巣を取り戻すことができるようになることでしょう。この方法こそ、外科的治療に代わって非観血的にクローン病を治癒しうる根本治療となるのではないでしょうか。難病のクローン病退治が近い将来実現するかもしれない、日常臨床での治療の可能性を拡大出来るかもしれない、そのような期待感を多いに持てる研究報告でした。
 
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