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愛し野塾 第57回  ジカウイルス感染の蔓延

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蚊が媒体となって伝染させる「蚊媒介感染症」のウイルスの一種であるジカウイルスが猛威を振るっています。ジカウイルスは、1952年にタンザニアとウガンダで人への感染が初めて確認されていましたが、現在、大流行が危惧されるブラジルでは、2015年4月まで一例の報告もありませんでした。2015年4月から同年11月までの間に、ブラジル27州のうち18州からジカウイルス感染に関する症例が報告され、ジカウイルス感染症の出現とともにブラジルにおける小頭症の頻度が、20倍にも上昇したのです。2015年度は、1248例の小頭症の疑診例があり、これは10万人の新生児あたり99.7件の頻度と算出されました。ブラジルの厚生省は、「ジカウイルスと小頭症の関連は確実である」とし、WHOは、ジカウイルスと先天奇形について注意勧告をする事態となっています。
 
さて、症例報告では、母親からジカウイルスの垂直感染を受けた新生児3人が、小頭症だけでなく、眼底に斑状萎縮があることが示されました(Lancet VOL387、pp228,2016,January 16,Zika virus in Brazil and macular atrophy in a child with microcephaly)。今後は、小頭症、眼症を含め、より広範に先天奇形がある可能性が指摘されており、大規模な疫学研究の結果が待たれます。
 
しかし一方で、ジカウイルスが小頭症を起こすことが科学的に証明されたわけではなく、「この流行が過ぎ去るまで妊娠を遅らせるべきである」と勧告を出した国があることを暗に批判している論説が、NIHの所長ファウチ博士から出されました。感染が世界的に拡大することが危惧されるなか、今後の対応に関して、慎重な対応を期待する専門家の意見もあることに注意を要します(NEJM Zika Virus in the Americas ― Yet Another Arbovirus ThreatAnthony S. Fauci, M.D., and David M. Morens, M.D.January 13, 2016DOI: 10.1056/NEJMp1600297)。
 
感染源として、すでにジカウイルスに罹患しているが、症状のないひと(不顕性感染)が問題となっている点も重要です。ジカウイルスに罹患しても80%のひとは無症状であるからです。つまり、こうした不顕性感染者が蚊にかまれると、蚊にジカウイルスが逆に伝播し、その蚊が別の健康な人にジカウイルス感染を広げる構図が判明しているからです。このため、罹患者は急速に増えていると見積もられ、すでに、44万人から130万人もいると推定されています(Lancet VOL387 pp335-336, Anticipating the international spread of Zika virus from Brazil)。1月28日には、「感染者は年末までには400万人にも及ぶ」可能性についてWHOは言及しています。ジカウイルス伝播予防策としては、まず、日中蚊に咬まれないようにすることと警告しています。また、ブラジルは観光、ビジネス関係者等、国内外、多くの人が出入りします。ブラジルでは、ジカウイルスが発見された地域から50km以内にある空港から2014年9月から2015年8月の1年間に国外に出た人は、990万人、行き先は米国だけで276万人と推定されています。アジア方面には、5%が出かけている計算となります。グローバリゼーション化によって生じた渡航者の自由な往来によって世界にむけて急速にジカウイルスが伝播される可能性があるということはいうまでもありません。事実、米国ではすでに多数のジカウイルスの感染者が特定されています。ブラジルは、夏のオリンピックをひかえています。蚊には絶対に咬まれないように行動する、そうした注意喚起が必要だ、とカナダトロント大学のボコッホ博士らは力説しています。
 
ジカウイルス感染症の症状は比較的軽いもので(発熱、筋肉痛、結膜炎に伴う目の痛み、倦怠感、斑点状丘疹が2-7日続く)、感染しても症状がない方が多く、かつ、検査キットがいきわたっておらず(PCR検査が唯一の診断法で、血清検査は、デング熱、西ナイル病、黄熱病と交差反応があり確定診断できない)そのため迅速な診断が難しく、現在までに特効薬もなく、ただちに治療することもできず(治療は十分に休養を取り、水分を補給し、痛みや熱にたいして解熱剤を使う程度)、ワクチンもなく予防すらできない、というバックグラウンドゆえに現在のところパンデミックな流行を止めるすべがないのです。一刻も早い、ワクチン開発を含めたこの感染症対策が、WHO主導で行われることが必要であると考えられています。エボラ感染を水際で食い止められず、爆発的な流行を許してしまった、WHOの不手際で、同機関の信用は大きく落ちました。今回はその轍を踏まないよう、迅速な対応が望まれます。
 
1月29日現在のWHOのHPでは、(1)感染症監視の強化、(2)蚊の駆除を各国と強力して推進、(3)ウイルス同定を可能にする検査室の設置、(4)ジカウイルス感染症者の治療とモニタリングのガイドライン策定、(5)ジカウイルス感染症研究の早急に推進するべき分野の特定、を対応策としてあげています。
米国疾病局(CDC)のガイドラインでは、2週間以内に、ジカウイルス蔓延国訪問歴がある場合、妊婦は、症状があるかたにのみジカウイルスの検査を勧めるとしています。
 

問題はPCR検査の結果で陰性であってもこれは確定的であるとはいえない点です。なぜならジカウイルス感染後1週間以内の検査でなければ有効でないからです。おそらく一番確実なのは超音波をすることですが、小頭症は、妊娠中期末にしか、画像診断ができないというジレンマも抱えています。妊娠の可能性を考えれば、ジカウイルス感染症に行かない、のが良策といえるとしています(NYT Short Answers to Hard Questions About Zika Virus By DONALD G. McNEIL Jr. )。ジカウイルスの報道から目が離せない状況となっています。ブラジル渡航の可能性があるかたはくれぐれも蚊に用心していただきたいと感じました。
 
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