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愛し野塾 第70回 BMIと死亡率の関係

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BMI(Body Mass Index:体重と身長によって算出される体格指数、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))が増加し、肥満度が上昇すると、死亡率が上がることは広く知られています。BMIの増加と糖尿病、高血圧、脂質異常の発症率の増加には明らかな相関があること、また動脈硬化の悪化とも関係し、心筋梗塞、脳卒中などの発症にもつよい関連をもつ数値として、健康診断・予防医学の分野では汎用されています。また、肥満は、癌の発症リスクの上昇にも関係し、死亡率が上がるもう一つの大きな原因と知られています。
 
しかし、一方で、「BMIが減少しても死亡率が上がる」という仮説について、その因果関係の詳細には議論があるところです。「癌などの病気によって食事が摂れないなど持病に起因した理由からBMIが減少しているため、間接的に死亡率があがる」という意見と、「BMIが減少していると肺炎など呼吸器疾患のリスクが上昇し、死亡率があがる」という意見が対立しているところです。
 
近年、多くの国で、BMIは、緩やかに増えてきていますが、実は、肥満のかたに絞って分析すると、糖尿病を除く高血圧や高コレステロール血症、喫煙率などの心血管系のリスク因子は、有意に減少してきている、という研究報告があります。このため、時代の変遷とともに、BMIと死亡率との関係は変わってきている可能性が指摘されてきていました。重要な健康上の関心事である、「もっとも死亡率が低くなる適正なBMIの値」について、科学的に妥当性のある論文が報告されましたので、解説してみましょう。
 
論文は、デンマーク・コペンハーゲン大学のノルデスタガート博士らが、権威ある臨床医学誌、米国医師会雑誌に平成28年5月10日報告しました。
 
Afzal, S., Tybjærg-Hansen, A., Jensen, G. B., & Nordestgaard, B. G. (2016). Change in Body Mass Index Associated With Lowest Mortality in Denmark, 1976-2013. JAMA, 315(18), 1989-1996.
 
この論文では、「最も低い死亡率を示すBMI」が過去30年の間、経時的に上昇しているという仮説のもと、デンマークの3つのコホート、1976−1978年(13704人、男性46%、年齢の中央値54歳、観察期間23.6年、初期コホート)、1991−1994年(9482人、男性43%、年齢の中央値61歳、観察期間15.9年、中期コホート)、2003年−2013年(97362人、男性44%、年齢の中央値58歳、観察期間5.9年、最終コホート)に登録したかたのBMIと死亡率の関係を解析しました。
 
本研究は、コペンハーゲン•シティー•心臓研究と呼ばれます。20-100歳のかたを無作為に選び試験に参加してもらう形を取っています。全員がデンマークの白人で、デンマーク生まれで、その両親もデンマーク人です。喫煙率は、20(初期コホート)➡26(中期コホート)➡15(最終コホート)パック•年と有意に減少していました。アルコール消費量は、1週間あたり、48グラム➡60➡96と有意に増加していました。運動量は有意に増加、また収入も有意に増加していました。1000 person-years(観察人年)あたりの死亡率は、30➡16➡4と有意に低下していました。
 
結果は、死亡率が最も低いBMIの値は、23.7➡24.6➡27.0と上昇していました。心血管死亡率が最も低いBMIは、23.2➡24.0➡26.4と同様に上昇していました。そして、BMIが18.5〜24.9の適正BMI値のかたと、BMIが30以上の「肥満」にあたるかたの死亡率の比較では、30年の経過で、リスクが1.3から1.0へ低下したこという驚くべき結果を見いだしたのです。この結果は、年齢、性別、喫煙、心血管病、癌の既往といった交絡因子の影響をうけませんでした。つまり、この30年で「肥満になっても、死亡率が有意に低下した」ということがわかったのです。そして、その理由は高血圧、糖尿病、脂質異常、心血管病の治療法が進歩し、全体の死亡率が低下したが、もっとも医学の恩恵を受けたのが、肥満者だったと解釈されているところです。
 
さて、最も死亡率が低かったBMIについてとりあげますと、これが、現在WHOが推奨しているBMIのレンジ(18.5から24.9)ではなく、肥満のレンジとして判定されるBMI27が、最低死亡率であったことは、国際的に衝撃があったようです。また、喫煙歴がまったくなく、心血管病や癌の既往歴のないかただけを対象にした解析でも、BMI26.1が最低死亡率を示し、得られた結論は確かなようです。
 
この研究が信頼性にたるものであると見なされる重要なポイントは3つあります。(1)3回のコホートともコペンハーゲンという同じ町の住人を試験登録しており、地域によるバイアスがないこと、(2)様々な交絡因子の登録、解析もほぼ同じ手法を毎回とっていること(3)すべての登録者をひとりひとり死亡にいたる、あるいは海外への移住にいたるまで完璧に経過を追っていることがあげられ、バイアスの少ない精度の高い研究といえるのではないでしょうか。
 
一方で考慮すべきポイントは、まず第一に、3つのコホートの経過観察期間が異なることですが、初期コホートと最終コホートのセンシティビティー解析では、観察期間の差では、得られた結果の相違は説明できないとする評価でした。また、初期コホートの一部が、中期コホートにも登録されていることも問題ですが、初期コホートと最終コホートのみを比較しても結論は変わらなかったことから、結果の解釈に影響はないレベルの弱点と考えられます。ただし、年齢の中央値がそれぞれのコホートで異なっていたのは、問題ではないでしょうか(年齢の中央値が初期コホート54歳、中期コホート61歳、最終コホート58歳)。中期コホートには、若いひとの新規登録を増やして、年齢をあわせようとしたと論文中に記載がありますが、十分ではなかったようです。こうした事情もあり、最終コホートには、健康な人の割合が、初期、中期コホートに比較して、多かったのではないか、という懸念が生じますが、2014年のデンマークの死亡率は、1000人•年あたり9で、心血管死が23%、癌死が30%であり、最終コホートは、死亡率が、1000人•年あたり9で、心血管死が26%、癌死が41%でしたので、この指摘は当たらないようです。デンマーク人のBMI25以上を占める割合は47%で、最終コホートは、56%でしたので、むしろ、最終コホートには、肥満者の割合が多かった可能性も否定できず、得られた結果の正当性は揺るがないと考えていいようです。
 
2011年の日本のコホート研究では、最も低い死亡率をしめしたのは、BMI21−27でした。特に男性では、25−27が一番低い死亡率を示したことは、今回の結果と良く符号します。
 
こうした結果を踏まえて、健康維持のためには、▼やせすぎ、太りすぎに注意をするが、BMI27あたりのやや太目をキープする ▼定期的な運動(目安として1日20分程度、1.6kmを歩く等)を行う、▼フレッシュな果物を毎日食べる、▼エクストラバージンオリーブオイルを料理に使う、▼野菜を毎日食する、といった生活習慣を身につける、といったことが、ポイントになりそうです。夏までに〜キロ減量!と目標を立てる前に、まずは、自分の健康生活に相応しい適正体重を今一度確認してみませんか?
 
 
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