記事一覧

愛し野塾 第76回 2型糖尿病に伴う合併症治療の真髄に迫る?

2016062702.jpg

 WHOの報告では、糖尿病患者数は、世界の18歳以上の8.5%を占め、現在も増加の一途をたどっています。国民栄養調査によりますと、日本人男性の16%、女性の10%が糖尿病に罹患しているとされ、もはや国民病と言っても過言ではないでしょう。

 糖尿病の主たる症状である高血糖は合併症を引き起こします。高いグルコース濃度に暴露されることによって、大血管や細小血管は、障害を生じます。大血管障害は、心筋梗塞・脳卒中・下肢動脈閉塞を誘発し、生命予後に重大な影響を及ぼします。一方、細小血管障害は、眼症・腎症・神経症を誘発し、結果として失明したり、透析治療が必要になったりと、日常生活に支障をきたすおそれがあります。2012年だけで、糖尿病に関連する死亡数は、世界で150万人と推定されました。

 さて、糖尿病に因る関連死を減少させることを目的に、多数の薬剤開発がなされ、糖尿病治療は進化しているようにみえます。しかし、実際、大血管障害や細小血管障害を防ぐのに十分な効果があるのかどうか、いまだ明確な答えはでていません。現状では、ガイドラインに即した、食事管理、運動療法、また旧来型の血糖降下剤の服薬やインスリン注射を施行したとしても、合併症の予防は難しく、判然としない段階にあるのです。

 この10年の間に新薬として認可されたものは、GLP-1アナログ、DPP-IV阻害剤、SGLT2阻害剤の3つの種類があり、これら薬剤による合併症予防効果が期待されてきました。最初の2種類(GLP-1アナログ、DPP-IV阻害剤)の薬は、インスリン分泌を促進させることによって血糖降下作用を惹起することが知られています。3つ目のSGLT2阻害剤は、尿中への糖の排出を促進させて血糖を安定化させ、体重減少・脂質低下・尿酸低下・酸化ストレスの低下を促します。残念ながら、最近の大規模臨床試験の結果によって、DPP-IV阻害剤は、合併症予防効果については否定的な見解が得られています。しかし、今回、GLP-1アナログとSGLT2阻害剤の糖尿病合併症予防効果を肯定する結果が相次いでNEJMに報告されました。

Empagliflozin and Progression of Kidney Disease in Type 2 Diabetes.
Wanner C, Inzucchi SE, Lachin JM, Fitchett D, von Eynatten M, Mattheus M, Johansen OE, Woerle HJ, Broedl UC, Zinman B; EMPA-REG OUTCOME Investigators. N Engl J Med. 2016 Jun 14

Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes.
Marso SP, Daniels GH, Brown-Frandsen K, Kristensen P, Mann JF, Nauck MA, Nissen SE, Pocock S, Poulter NR, Ravn LS, Steinberg WM, Stockner M, Zinman B, Bergenstal RM, Buse JB; LEADER Steering Committee on behalf of the LEADER Trial Investigators. N Engl J Med. 2016 Jun 13

 まず、SGLT2阻害剤のひとつ「エンパグリフロジン」についてお話ししましょう。大規模臨床試験「EMPA-REGトライアル」では、心血管病既往あり、腎機能は良好(eGFRが少なくとも30以上)な患者を対象に、2015年には「大血管障害への効果」について報告されています。その結果、同薬を既存の治療に追加投与すると、「心血管病による死亡が、プラセボ投与群に比較して38%有意に低下している」ことがわかり、注目を集めました。大血管障害による死亡が有意に減少していたという事実は大きなインパクトを医学界に与えました(詳細は、愛し野だより第362号をご覧ください)。しかし、心筋梗塞と脳卒中の発症率の低下を認めず、不安定狭心症による入院数の減少も認められませんでした。最新の発表では、この報告に加え、同薬「エンパグリフロジン」による細小血管障害の予防効果について報告がありました。試験のアウトカムは、尿中のアルブミン排泄量の増加(尿中アルブミンが300mg・Cr gram以上となる)、腎機能の悪化(クレアチニンが2倍になる比率)、腎移植、及び透析への移行率、腎疾患での死亡率の分析調査によって行われました。

 42カ国590カ所の7,020人を対象に試験が行われました。エンパグリフロジン投与治療によって、腎臓疾患の発症、悪化したケースは、12.7%で、プラゼボ投与群に比較して、39%の減少を認めました(p<0.001)。クレアチンの値が倍増したケースは、同薬投与群で、1.5%、プラセボ投与群に比較して44%のリスク低下作用を認めました(p<0.001)。透析術・腎移植を受けたひとは、0.3%で、プラセボ群に比較して50%のリスク低下を認めました(p=0.04)。

 プラセボ投与群に比較して有意に高い率で生じた「エンパグリフロジン」の副作用として、陰部感染症を認めました。さらに、頻度としては低かったとはいえ、「尿路感染に伴う敗血症」がプラセボ投与群より約2倍多かったことは臨床上懸念される副作用であり、泌尿器系の感染症には特段の注意を払う必要がありそうです。尿量を常に多めに保つこと、排尿障害を認めたときには、即座に感染症を疑って、検査体制を整えることが必須であると指摘されています。
 副作用への注意喚起が必須であるとはいえ、今般の「エンパグリフロジン」の腎機能障害の進行を食い止める作用は、昨年の心血管病死のリスクを減少させるという報告と相乗して、「糖尿病の合併症予防に効果的である」ことは明白で、糖尿病治療を刷新させたといえるインパクトのあるもののようです。
 
 LEADER研究では、GLP1アナログである、1.8mgの「リラグリチド」を、皮下注射し、有効性について、9,340人の患者(4,668人がリラグリチド、4,672人がプラセボ)を対象に、42ヶ月から60ヶ月経過観察が行われました。糖尿病の罹病期間は12年で、試験開始時の平均HbA1cは8.7%でした。プラセボに比較してリラグリチド投与群では、血糖の低下(36ヶ月で、0.4%の低下)、体重の減少(36ヶ月で2kg)、収縮期血圧の低下(36ヶ月で1.2mmHg)を認めました。心血管病による死亡率、非致死性の心筋梗塞、脳卒中発症率を混合したものをアウトカムに設定したところ、リラグリチド投与群で有意に低下を認め(リラグリチド投与群で13%、プラセボ投与群で14.9%、(p<0.001))ました。心血管病死は、リラグリチド投与群で22%有意に低下(p<0.007)、全死亡率も15%有意に低下(p=0.02)していました。腎疾患の発症は、22%有意に低下(p=0.02)、網膜症は15%上昇(有意差なし)という結果を認めました。大血管障害予防への優れた効果は臨床上非常に興味深いものです。心筋梗塞、脳卒中、心不全の入院数に差を認めませんでしたが、胆嚢結石症は、リラグリチド投与群で有意に多く(リラグリチド投与群で143例とプラセボ群で90例 P<0.001)、膵臓癌は、リラグリチド投与群で13例とプラセボ群で5例と、2群間に有意差はありませんでした(P=0.06)。リラグリチド投与群では、消化器系の副作用が多く、プラセボ投与群に比較して、30%も増加しており、副作用を理由に治療を中断するかたも多く認められました(P<0.001)。副作用の症状として、吐き気、嘔吐、下痢が有意に多く認められました。今後は、治療継続を可能とする副作用への取り組みが必須でしょう。

 上述の研究報告から、エンパグリフロジン、リラグリチドといった、SGLT2阻害剤、GLP1アナログに属する薬剤が、糖尿病合併症予防をもたらす新規薬剤として中心的役割を果たしていくものと考えられます。両剤とも、血糖降下作用以外の、体重減少作用、及び血圧低下作用が、合併症予防に好影響を及ぼしたものだと考えられます。副作用の観点から、エンパグリフロジンについては、尿路感染症の既往患者には使用しない、リラグリチドについては、消化器系疾患の既往患者には、特段の注意をするなど、臨床上注意も怠らず今後検討されるべき課題だと思います。
 
 
過去の愛し野塾
 
新着情報一覧へ戻る

  • 糖尿病
  • 内科
  • 心療内科
  • 小児科
  • リハビリ科